第7章 第六話 千年の剣士
次の日の朝。
何やらぎこちない空気のユキサと神田。
珍しい事もあるんだな、と不二は思った。
お互いがどう思っているかは、見ていればだいたい分かる。
自分の彩音への思いとは違うようだが、神田はユキサを大切に思っている事。
ユキサもそんな神田の傍が一番落ち着く場所だろう事。
2人ともあまり踏み込んだ発言もしないため、言い合いをする事もない。
昨日まで普通だったはずだ。
一体何があったのだろうか。
彩音も気づいているようで、困惑している。
「ビットリオの事だけど」
口を開いたのはユキサ。
ここ数日の間で、お世話になっている家の、村の中で聞いた事を彩音と不二へ話した。
かつてビットリオが仕えていたお屋敷が、現在のサルディーニ家の土地。
そのため、ビットリオがクラウディアをサンドラと勘違いしている可能性がある。
ビットリオは今もなお、サンドラいや、クラウディアのために戦っているのだ、と。
「それで、理由はわかったけど…」
これからどうすると不二が聞くと、神田が立ち上がった。
「神田、また戦いに行くの!?」
「ここで話してても時間の無駄だ」
「だけど、相手は傷つけられても再生されるんだよ?」
なんとかする、と答えて神田が部屋を出ていこうとした。
神田の行く手を、不二が塞ぐ。
眉間に皺を寄せる神田。
「神田。僕が行くよ」
「え、周助!?」
「お前では勝てない」
「今の状況なら、神田だって無力でしょ」
言われて神田の眉間の皺が更に深まった。
「僕がAKUMAを見張りながらビットリオの相手をする。その間、神田は何か策を考えて」
「んな悠長な事を言ってる場合か」
「闇雲に突っ込んだ所で何にもならない。…また怪我をする」
誰が、とは言わない。
ビットリオが不死身と分かった今なら、神田が危険な目に合えばユキサは確実に動く。
頼むから、無茶な戦いだけはしないでくれ。
不二の視線は強く神田に向けられていた。
少しの間をあけ、神田は小さく舌打ちをして椅子にどかりと座った。