第3章 加速する想い
私はそれに気づかないフリをする。
少なからず、今の冷静な頭で私との事を考えたに違いないから、多少なりとも罪悪感なんかも生まれてしまったんだろう。
食欲がないのも、多分それがきっかけだったと予想する。
彼は、優しいから。
私が責めてない時点で、気にする事ではないんだけど。私だって綺麗事を並べるほど子供じゃないし、理解出来る部分もあるわけだし。
この関係に今すぐ答えは出せないけど、彼がそれで自分を責めるのは見ていられない。
だから、私は私の出来る限りの事はしたい。
これが私なりの彼への愛情だ。
黙って仕事をしていると、終わった頃にはもう気づけば時計は翌日になっていた。
「集中してたら、もうこんな時間だ。飲みに行けなかったね」
「ぁ……そうだな……すまん」
「もう謝るの禁止。独歩のせいじゃないでしょ」
伸びをして、片付けを始める。片付け終わって一息吐いた独歩を見ると、頭がカクンと船を漕いでいる。
ありがたい事に、明日は休みで珍しく独歩の休日出勤もないみたいだ。
「眠い?」
「ん……」
半分寝ているのか、アンニュイな顔が私を見上げる。
可愛過ぎて、身悶えたくなる感情を押し殺す。
独歩の手を引いて会社を出て、近くでタクシーをつかまえて独歩の家まで向かう。
マンションの前に辿り着いた時、見覚えのある明るい髪が目に入る。
「あれ? 独歩に……さん?」
スーツ姿を見て、仕事なのだと察した。
「あれ? お仕事は?」
「あぁ、少し忘れ物をね。独歩は……これは駄目だね。さん、独歩を頼めるだろうか」
「そのつもりだったから、大丈夫です。こちらは気にせず、お仕事頑張って下さい」
爽やかに去って行った一二三さんを見送り、改めて独歩の手を引いて歩き出した。
自分の持ち物をリビングに置いて、立ちながらほとんど眠りにつきそうな独歩の手を取り直し、部屋へ入る。
更に散らかっている部屋に入り、ベッドに独歩を誘導する。
「ほら、もうちょっとだからしっかり」
フラフラしながら、スーツを脱いで部屋着に着替える。
慣れているのか、やたら手際がいいように見えた。
しかし、普段からこうなのは、少し心配になる。
無事ならいいけれど。