第3章 加速する想い
控えめにスプーンを取り、一口入れて少し辛そうな顔をする。
「大丈夫? 気持ち悪い?」
「……ぃゃ……大丈夫……」
俯きながら呟いた彼は、とても大丈夫そうには見えない。
でも、ちゃんと食べて貰わないと、心配過ぎて今度は私の方が食欲がなくなりそうだ。
スプーンを持つ独歩の震える手を握り、スプーンを取る。
「はい、あーん」
「……なっ……」
「ここで口移しはさすがにねー。ほら大人しく食べなさい」
驚きに目を見開く独歩の耳元に、口を近づける。
「これ以上痩せた男に抱かれるのはねぇ……。それに、痩せた男になら私勝てちゃうかもしれないから、そしたら独歩私を押し倒す事も出来なくなるけど、どうする?」
言うと、独歩は考える時間すらなく、私の差し出すスプーンを口に運ぶ。
「よろしい。独歩はいい子だね」
そう言ってふわふわの髪を撫でると「子供扱いするなよ」と呟いた彼は、少し嬉しそうだった。
微笑ましくて頬が緩む。
「おっ! また観音坂が餌付けされてんじゃん」
「いいねー、羨ましいよなー。けど、イチャついてたら、昼休みの時間もうほとんどねぇぞー」
外野に茶化されながら、独歩の口にスプーンを運んでいく。
さっきよりだいぶ顔色も良くなり、オムライスを食べても気分を悪そうにしなくなった。
本当に素直なんだろうな。
独歩に食べさせながら自分も食べるという、器用な事をやってのけた私は、独歩がちゃんと食べ切るのを見届けて、やり切った満足感に息を吐いた。
午後の仕事は独歩の様子を気にしながら、という形になる。
独歩のお陰で無駄な器用さが身につきそうだ。
相変わらず課長にいじめられて、背中を丸めて小さくなる独歩を見ながら、ため息を吐く。
少しくらい言い返せばなんて、私には言えない。
あんなんでも上司で、逆らって彼にメリットはないだろう。
また今日も残業を言い渡された様子の独歩を、放って置く事がもちろん出来るわけもなく、最近よく見る光景にもなりつつある。
独歩の隣に座り、静かなオフィスで仕事をする。
「また手伝ってもらって、すまん……」
「大丈夫よ、気にしないで。さっさと終わらせて、飲みに行こ。奢ってあげる」
私の言葉に、独歩は黙り込んでしまう。