第6章 あなたとともに
「ツナ!」
呼ばれた唯は顔を上げる。
気が付けば、ホースも傍らにあった上露も片付いて、すぐ側に棘がいた。
「明太子」
お待たせ、と小走りに駆け寄ってくる。
立ち止まった棘がふと目を細めた。
「こんぶ」
ほんの少しだけ唯より高い目線に視線を向ければ、一瞬影で視界が暗くなる。
「…………?」
瞬間ーー。
頭にふわりとかかる、大きな掌。
温かな掌が唯の頭をひとつ、そっと撫でていった。
唯の髪を梳くように、優しく滑って落ちた棘の掌。
「ツナマヨ」
行くよ、と言って唯にその手を差し出す。
「…………っ」
ドクドクと。
嬉しくて、恥ずかしくて。
でも苦しく胸が鳴っていた。
差し出された同級生の手を素直に取って良いのかわからなくて。戸惑い、動けない唯に少し呆れたように息を吐く棘。
「ツーナーマーヨ!」
再び言って唯の袖に触れた。
する、と伸びて唯の手を握った棘の掌は、やはり温かい。同じくらいの体格なのに、不思議と唯の掌を包み込んでしまう男性の掌。
触れた唯の手を引っ張りながら棘は歩き始めた。
先まで遠かった彼の背中が、目の前にある。棘が歩く度に、亜麻色の真っ直ぐな髪が揺れていた。
「高菜ー。すじこっ」
ちら、と唯を見た棘は、ネックウォーマーで隠した頬を僅かに染めて。
小さく笑って、目を逸らした。
「…………」
揺れる髪は夕方の陽に染まってとても綺麗で。
マッシュルームヘアの亜麻色に、黒の制服の背中を見て、唯は顔を隠すように目を伏せる。
頬が熱い。
こんな日常が続けばいい。
それだけでいいのに。