第6章 あなたとともに
ここにあって、安心出来る温かい何か。
くすぐったいような、胸がきゅっとなるような。
唯は小さく笑みを浮かべる。
ーーなんだか、久しぶりに笑った気がした。
これはたぶん“優しい”彼の私への気遣い。
「私は、そんな優しい棘くんが、好きだよ」
一度だけ、唯は教室で棘にそう告げた事があった。告白した訳じゃない。物のついでのように言ったけれど、内心穏やかではなかった。
心臓がはち切れそうなくらいドキドキして。
その後棘に何を言われたか、唯は全く覚えていないくらいには緊張していた。
付き合えたら嬉しいな…、なんて。
そんな含みを持たせたのも嘘じゃないけど。
棘は唯の言葉を、気にもしていないようだった。
私はΩで棘はα。
あまり詳しくはないが棘は狗巻家嫡男のαだ。付き合うと言う事は、簡単な話ではない。
それは、知っている。
それでも、好きだった。
それだけだった。
ーーだって、やっぱり棘くんは優しくて。