第1章 好きだった
術師を絶やしたい家系に術式を持って産まれて、この世に生を受けた瞬間から疎まれて育った。
こんな俺を産んでしまった母は、俺にはとても優しく接してくれた。幼い頃、たったひとつの救いだったその手は、あの家では爪弾き者、出来損ないとして扱われ、少しずつ、少しずつ壊れていった。
無になっていった。
「 さよなら 」
そう告げた母はある日を境に姿を消した。幼いながらに、それで良かったんだと思う。
俺さえ産まれて来なければ、彼女は何事もなく今もあの家に居たんだろうか。それで幸せだったんだろうか。
もう、母の顔も朧げな記憶だけれど。
そんな自分が婚姻を結ぶ事、種を残す事は勿論否とされている。
狗巻家には『優秀』なαもΩも必要ない存在。
術師はもう、あの家に産まれて来てはいけないんだ。
だから性別なんて関係ない。
運命の番なんて、どうでもいい。
そう、思っていたのに。
彼女と出逢った瞬間、
本当に、それは何の前触れもなく。
ーー俺は彼女と番になる。
そう、思ってしまった。