第1章 1
仕事をやめた。
この職業難のご時世になんてことを・・・と実家の母に怒られた。
周りの友達や知り合いに『ばかなことを・・・』とため息をつかれた。
けど、やめてしまったものは仕方ない。
やりがいを感じていたわけでもない、ストレスがただ貯まるだけの職場でずっとこのまま働いていくことがどうしても我慢できなかった。
わがままだと罵られても、いい大人なんだから我慢すべきだと言われても、ストレスで体調を崩してまでやりたくもない仕事を続けていくのは無意味に思えて、今回の決断をした。
今日が最後の出勤だった。
通いなれた通勤ラッシュの満員電車も今日でお終い。
見通しが全くついていない未来とは裏腹に、それは清々しいくらい澄んでいて、夜空には星が瞬いていた。
東京の桜も今が満開らしい。
わたしはその桜見た差に、いつも降りる駅より一駅手前で満員電車から逃げ出した。
その駅から自宅アパートまでの道のりに、桜の並木道があって・・・。
初めて紘くんと出会ったのもその場所だった。
紘くんは、唯一、わたしの突然の退職にも批判めいたことを一言も言わず応援してくれた。
やって見たいことがあると言うわたしに微笑んで。
がんばれと。
最後まで俺がそばで見届けてあげると。
誰のためでもない、自分の人生なんだからと。
温かく微笑んで。
家族や友達にまで呆れられたわたしの背中を押してくれた。
紘くん?
初めて出会ったのも・・・この夜桜の下だったね。
遠くも近くも思える出逢った頃を思い出しながら満開の桜を見上げた。