第12章 転機
そこまで聞いた所で、は静かに頷いた。
「分かりました。じゃあ、わたしは娼館で働きます」
「おお!」
カルファの目が輝く。
「流石貧乏だなー、おい! よっしゃあ早速行」
そのままにこやかにの手を取ろうとするもその手は空を切る。
「よろしくお願いします。今まで、普通に過ごさせてくれてありがとうございました」
は握手も拒否もせず、カルファに礼を言い、深く頭を下げるだけだった。
「お、おお……悪いな」
カルファは面食らったのか、普段全く言わない謝罪の言葉を軽口ながら洩らす。
の表情は凪いだ海のようで、前日のような焦りや驚きは見えない。
喜怒哀楽すら読み取れない。
カルファはになんと声をかけていいのか分からなくなる。
と言うよりも何故か急にそんなことを意識してしまい、その事実に胸の内は酷く掻き乱されていた。
「……行くか」
「はい」
なんとはなしに、気楽に声を掛けることも手を握ることも、今のにははばかられる。
普段ならじゃれ合いながら連れ立って歩く所だが、重厚な作りのドアをそれぞれ潜る。
カルファは妙にざらついた気持ちを抱えながら部屋を後にし、扉を閉じた。