第1章 1
「すいませんでしたっ!お時間取らせちゃって申し訳ないです!!」
アフレコ現場でブースから出て行く先輩声優さんたちに頭を下げるわたしの声があたりに響く。
演技がうまくいかず、何度もやり直し、それでもOKが出ず、テンパって噛み倒す・・・。
魔の負の連鎖がまさに今わたしの身の上に降りかかり、先輩ばかりの現場でプレッシャーに押しつぶされそうになりんがら、ようやく取り終え、ブースを出て行く先輩たちを深々と頭を下げて見送った。
「いいって。こんな日もある。次、頑張れ」
優しい言葉をかけてくれる先輩もいたが、わたしは半泣きだった。
「ありがとう・・・ございます・・・すいません・・・」
声をかけてくれた先輩にもう一度頭を下げてお礼を言い、謝罪の言葉も口にしながら、わたしは拳を握りしめ、歯を食いしばって涙を堪えた。
情けない。
悔しい。
今日の現場は・・・あの人もいたのに・・・・っ。
ブース内が静まり返って、もうみんなお帰りになられたかと顔をあげる。
後ろからガシッと大きな手がわたしの頭をつかんだ。
その感触に、わたしの体は凍りついた。
その手の主は分かっていた。
同じ事務所直属の先輩、谷山紀章さんだ。
「・・・・ごめんなさ・・・すいません・・・」
震えそうになる声を必死で堪えて、つぶやくように謝った。
「・・・、今日はこれで終わり?このあと空いてる?」
紀章さんの低い声。
「は、はい・・・」
「じゃぁ、飲みに行くぞ。さっさと支度してこい。」
「はい・・・」
わたしは説教を覚悟して小さく返事を返した。