第12章 【ほのぼの甘】五条先生と夏油先生
「夏油先生、手合わせお願いできますか」
「構わないよ。では、まずお手並み拝見といこうか。呪力強化無し。弱点、改善点はまとめて最後に伝える」
一年二年合同体術訓練にて、一年の伏黒くんが夏油先生の前で棍(こん)を構える。
まさかの得物を持たずに、チョイチョイと指で夏油先生が挑発すると、伏黒くんが一歩踏み込んだ。
砂埃が舞い上がった次の瞬間には、二人は互いの間合いに居た。
「躊躇わない、その思い切りはいいね」
伏黒くんの棍の猛攻を軽やかに躱し、夏油先生が鋭い蹴りを繰り出す。
寸でのところでそれをガードして弾いた伏黒くんに、そのまま流れるように右の拳を叩き込む。間一髪で反応した伏黒くんの顔を掠る。
「恵、動きは良いね。が、攻めの一手一手が浅いな。まさか私が丸腰だから遠慮してる?」
ふふっと笑いながらも、攻撃の手を緩めない夏油先生は、どこか楽しげに見える。
実際、伏黒くんはやり辛いだろうな。こちらの攻撃はあっさり受け流され、そのくせ向こうは遠慮なく急所を狙ってくるんだから。
「くっ……!」
じわじわと距離を詰められ、あっという間に防戦一方へと追いやられたのは伏黒くんだった。
間合いを取る余裕がなく、後退しながら徐々に追い詰められている。
その様子を見て、五条先生がため息をついた。
「恵さぁ……傑には毎回手合わせ申し込んでるのに、僕に体術を教わりたいって言ってくれたのは、今まで数えるくらいしか無いんだよね」
アラサーの成人男性が石の階段に座りながら頬を膨らませている。
拗ねて不機嫌になった五条先生に、私と同級生の真希とパンダが横からツッコミを入れる。
「あーわかるわー夏油さんの方が先生って感じだよな。アドバイス的確だし、私もこの後手合わせ頼もうかな」
「だな。俺も真希も効率重視の手合わせお願いするならそうなるわな」
「っていうか、なんだかんだ悟より余裕ある大人に見えるし」
「しゃけしゃけ!」
辛辣な二人に合わせて、私の隣に居た棘も頷いていた。そんな私たちニ年生ズからの物言いに、五条先生の口がへの字になる。
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