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【呪術廻戦】撫子に口付けを【短編集】

第10章 【五条/シリアス】大好きな君へ


その時々で、僕から見える範囲でだけ、誰かを助けたり守っていたと思う。

でもそれは別に善行でも何でもない。

それがたまたま、僕の目や力が届く範囲内だったっていう話。


「呪術の世界で『伸びる奴』ってどんな人だと思う?」


そんな退屈な世界で、君が現れたんだ。

天才ってのは、先天と後天で分けるのが難しいと思う。持って生まれた才能に、努力が加わると一気に才能が開花する場合もある。

でも、生まれ持った才能だけでは、どうにもならない部分があることを僕も知ってる。


「そうだねー、例えるなら……敵も味方も全部食らっていくってタイプかな」


一を聞いて十を知る。まさにゆめはそんなタイプだった。こっちの抽象的な返しにさえ、自分の思考を巡らせて答えに辿りつく。


「つまり、知識とか技術とかを知ろうってことに関して貪欲な人?」


ゆめは、飲み込みが早かった。それは天性の才能でもあるし、努力で身に着けた知識や技術でもある。


「ま、そんなとこ。天才になりたいなら馬鹿のように学べ……ってね」

「馬鹿と天才は紙一重ってやつ?」

「さぁね。今日で世界が終わると思い込んで即行動して、明日があると信じて貪るように学べば、ある程度は形を成すんじゃないの」

「本人の意思とは関係なしに、その努力をポンッと出来て結果を残す人が、周りから天才って言われちゃうんだろうね」


あなたみたいにね。

内緒話をするように、口パクで僕を指差して悪戯っぽく笑う彼女に、何だか胸の奥がムズムズした。

大体の奴は、大した努力もせずに僕の能力、生まれを羨む。

身に余る大きな力を日々解析しながら使いこなし、着々と進化していく僕に対して、畏怖と憧れを抱く周囲の視線や態度にも慣れてきた。


「天から与えられた道具に対して、力をどう使えばいいか学ぶところから始めないと、才能も開花しないよね。努力の方向性とかもさ、ある程度のセンスは必要だけど、結局は悟が頑張ってるから最強なんだと思う」


そう言って笑う君は、僕を天性の才能を持った最強の呪術師ではなく、一人の自己研鑽を続ける人間として対等に見て話してくれる。


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