第8章 【乙骨/甘】微熱
「え、ちょっ……憂太、いつの間に置いたの?部屋に来た時はケーキしか手に持っていなかったような……っていうか、お金大丈夫だったのかな」
驚いてベッドの方に目を遣ると、既に彼は穏やかな寝息を立てている。
日中は任務もあっただろうから、今日は彼に甘えて無理させてしまったな、と反省した。
それにしても、いつの間にかプレゼントを置くというサンタ顔負けの早技に苦笑が洩れた。
寝ていて無言のサプライズに呆れながらも、一つ一つ手に取って確認していく。
私が前に欲しいって言ってた、猫耳がついたフワフワのパーカーの部屋着が一番最初に目についた。
パーカーとセットになっているモコモコのあったかい靴下、タオルハンカチ、美味しそうなお菓子やシャンパン。
どれも私が喜びそうな可愛いデザインの物ばかりだ。
前に何気なく話したことを彼が全て覚えてくれていたことに、じぃんと胸が熱くなる。
「うわぁ……明日お礼しなきゃ。選んでくれたケーキもお菓子も明日食べなきゃな」
憂太が選んでくれたものは全て私の好みを押さえているものだった。
逆だな、彼が選ぶものは全部好きだと思っちゃうから、自分でも恋の病は重症だと思う。
「わぁ……これ可愛い」
奥の方にあった、綺麗に繊細な模様の刺繍が施された手鏡が入ったプラスチックの箱を手に取る。
以前はこんなものを貰っても困るだけだと思っていたが、憂太が一生懸命考えてくれたものだと思えば大切にしたいと思った。
憂太は優しい。優しすぎるくらいだ。
私のために頑張ってくれて、いつも側にいてくれる。そんな彼のことが好きだ。
彼のために、私も何かしたいと自然と思えるから恋は不思議だ。
「大好きだよ」
小さく呟いて目を閉じ、私は自分の唇に触れた。
デートのキスの感触を思い出して、ほんのり微熱を帯びる頬を冷たい手で冷やす。
両思いのはずなのに、今もただ彼への想いを募らせている自分がいる。
きっと、彼の優しさや笑顔に触れるたびに、彼を求める思いはどんどん積み重なっていくと思う。
「憂太、おやすみ」
明日は、元気な君に会えますように。
寝ている彼の黒髪を指で梳いてから、額にそっと口付け、私もソファで眠りに落ちた。
END.