第6章 【パンダ/ほのぼの甘】依依恋恋
悟と呼ばれた人が、慌てているパンダくんの攻撃をヒラリと躱した。
その人は黒い目隠しをしているのに、器用にパンダくんの腕をすり抜けて、軽い身のこなしで花壇や塀を足掛かりに屋根に登ってしまう。
「キレイに撮れたし、後でみんなに見せようかな」
そう言いながらニヤッと笑ったその口元の表情だけでも、一癖ありそうな人物だと分かる。
何が起きたがイマイチ把握できず呆然とする私の横で、パンダくんがプルプルと震えている。
「じゃあねー」
私達に手を振りながら、ご機嫌な口調で姿を消した男性に、「やられた」とパンダくんが地面を拳で叩きながら吠えた。
悟と呼ばれたその人は、さっきパンダくんが言ってた悪ノリがひどい人として名前が挙がっていたな、と思い出す。
冷や汗をかいてるパンダくんの表情から絶望と焦りが伝わってきて、なんとなく明日以降の流れが分かってしまった気がする。
励ますようにポンポンとパンダくんの肩を叩くと、「うう……」と彼はうずくまったまま落ち込んでいた。
後日、パンダくんが周囲にさんざん冷やかされて地獄を味わった話を聞いた。
だが、夜蛾さんが公認だと一喝してくれ、高専全体が私達の恋路を応援してくれるムードらしい。
「それは良かった……のかな?」
「良くないな……そのうち、真希と棘が冷やかしに店に来るぞ」
「じゃあ、見せつけちゃおうかな!」
「ゆめ、いつからそんなポジティブ魔神になったんだ」
「え?夜蛾さん公認になった時から?」
ワクワクしている私と対照的に、店のテーブルに突っ伏してぐったりしてるパンダくんの頭をヨシヨシしながら、その手にオヤツのカルパスを握らせてあげる。
「ゆめと2人で過ごせなくなるな」
カルパスを力なく噛みながら、そう呟いた彼に、パンダくんは2人きりで過ごしたいと思ってくれていたのかとひそかに衝撃を受け、私の顔が熱くなる。
少しずつ少しずつ、私を特別扱いしてくれるようになっているパンダくんの愛情を感じつつ、私は一人ニヤつきながら彼の横顔を見つめた。
END.
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