第5章 【五条/甘】撫子に口付けを
私には幼なじみがいる。
私はごく普通の一般家庭の生まれ。実家が近く、親同士も顔見知り、幼なじみの五条悟は、呪術の名門五条家の嫡男。
当主にもなってしまったので、数年ほど疎遠になってしまったが、私が高専の補助監督の職についたと耳に入ったのか、忙しいはずなのにほぼ毎日休憩と称してスイーツを持ってきて、仕事やら上層部の愚痴やらを聞かされるようになった。
「ゆめ、僕の持ってきた物なんでも食べるよね。万が一毒でも入ってたらどうすんの」
「……毒?悟がお菓子に毒入れるわけないじゃない」
「僕とも限らないでしょ」
悟には、たまによく分からない質問をされる。モグモグと悟のくれた高級プリンを食べながら頭にハテナマークを浮かべる。
「まぁ、いいや。ゆめはそのままでいてよ」
「……?私はいつも通りだよ。いつも通り悟のくれるスイーツも美味しいし」
私が口の中にプリンを運びながら返答すると、悟がプリンにスプーンを差したまま珍しく考え事をしているようだった。目隠ししているから、表情は分からない。少ししてまた彼の方から話しかけられる。
「ゆめってウソついたことある?」
「んー……晩ごはんつまみ食いしたけど、知らないってお母さんにウソついたことなら」
正直、大人になってからは、ウソって言えるようなウソはついたことがないと思う。ウソをつく必要性もなかったし、ウソをついても周りにすぐバレる性分なので止めた。かろうじて言葉を濁して伝える技術は習得したけれど。
私の返答に、ブハッと悟が吹き出す。
「ゆめ、それ何歳の話」
「え、えー、14歳頃?」
「ハハッ、いいね……迷ってたけど決めた」
悟が膝を手の平でパンッと叩くと、まだ食べ終わってないプリンを手に持って退室しようとする。
仕事か何か用事があるのかなと呑気に考えて、ボーッと姿を見送ろうとしていたが、彼の一言で事態が急変する。
「ゆめ、君の親御さんから『娘を嫁にもらってくれないか』って言われてたんだけど、OKしとくね」
今度は私がブハッとプリンを吹き出す。
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