第4章 【五条/ヤンデレ】燐光
「ごめんなさい」
これは私の夫となる人への謝罪ではない。
年下ながら私を思いやってくれた今は亡き人への言葉。
傑、とあの人には聞こえないようにその人の名前を呼んだ。
「ん、なんか言った?」
振り返った五条家の当主、悟が怪訝な顔で私を見た。私たちの結婚式がある晴れの日になんてことを考えていたのだろう。
「裾を踏んで転んだらごめんね、って」
ウェディングドレスの裾を手でゆらゆらさせながら誤魔化すと、サングラス越しに彼の瞳が少し細まる。その顔からは感情が読み取れない。流れるような動作で腰に手を回して抱き寄せられ、彼が私の耳元で囁く。
「2人分、受け止めてみせるから安心してよ」
2人分、と聞いただけで胃がせり上がってきそうだった。
他の男を想いながらも、命が宿り日に日にふくらむ腹。そして、後ろめたさに心が軋んだ。思考の片隅からじわじわと仄暗い部分が広がっていく。
「悟、愛してる」
今、うまく笑えているだろうか。
自分に言い聞かせるように愛を囁き、夫となる人の頬に触れた。
この選択に間違いはないはずだ。
ずっと想ってくれていた、この人の愛を受け入れれば私は不幸になることはない。大抵のことは許してくれるし、何不自由ない生活が約束されている。
そして、私の言葉に満足気に微笑む悟の口づけを受け入れた。
本日、私は五条悟の妻になる。
END.