第3章 【宿儺/死別】桜葬
「次に巡り合う時はお前に恙無(つつがな)い人生を与えてやろう」
現(うつ)し世しか興味がなかった宿儺が来世について話をするとは、とゆめは少し驚いたが、
「今度は平穏な世で、あなた様と契りとうございます」
そう告げ、ゆめは瞳を閉じ、大きく一息。そこで息が止まった。外はまだしんしんと雪が降る、ある真冬の夜のことであった。
どれほど経っただろうか。彼女の手から徐々に失われていく体温を宿儺は頬で感じながら独り、ケヒッ、とほくそ笑む。
生きているうちにゆめが応えたことによって縛りが確定した。蝋のように白い手の甲に映える赤い印は魂に刻む縛りの証。彼女が生まれ変わっても、その印が自分のもとへゆめを引き寄せる。
暫くして、また平安の世に呪いの王が降り立ち、人々を恐怖のどん底に落とし入れた。
まことしやかに当時の人々の間ではこう口伝されている。鬼の魂を鎮め、生贄になった巫女がいたからしばらくの間平穏だったのだと。生き残った歌祓いの里の民は、人柱ともなった娘を偲び、手厚く供養した。
死に際の言葉通り、桜の木の下でゆめは静かに眠りについた。
平安の世で出逢い、共に過ごした二人の呪いの契りの物語。
そして舞台は現代へ――
「ゆめってさ、手の甲に変なアザあるよね?生まれつき?」
「そうそう、生まれた時からあったって親から聞いてるー」
話している少女二人と、黒い制服を着た二人組がすれ違う。
「ん?」
「どうした、虎杖」
「いや、なんか……」
なんだか懐かしい気配がした。でもあの少女二人と会った覚えはない。自分でもなんだか分からないといった顔をする虎杖に、伏黒が溜め息を吐いた。
「はやく行くぞ」
さっさと歩き出す伏黒に、虎杖が慌てて続く。
ゆめが高専に入り、虎杖と宿儺に出会うのはもう少し先の話である。
END.