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【呪術廻戦】撫子に口付けを【短編集】

第3章 【宿儺/死別】桜葬




両面宿儺が人を襲わなかった空白の数年間がある。それは公に記録されて残っているわけではなく、呪術界の御三家のみが知る裏の歴史の記録である。

人の口には戸が立てられないもので、宿儺が病にかかったのだの、ついに術師どもに封印されたのだの、当時は様々な噂が平安の世を賑わせた。

そして、同じ時代、代々受け継がれる相伝の旋律に呪力を込めて歌い、呪霊の祓除、戦闘による止血や身体能力の強化など、御三家の呪術師たちの手助け役として裏で活躍した一族が平安の世に存在した。

歴史には残らぬ歌祓いの術式を持つ一族。族長の巫女を筆頭とし、凶悪な呪いを退けるために暗躍した影の一族である。

ある時、その歌祓いの里が一夜にして両面宿儺に滅ぼされた。

力の差を感じ取り、ほうほうの体で生き延びた里の者たちが御三家へ駆け込み、保護を求めた。ある者は御三家と養子縁組し、ある者は嫁入りした。そうして歌祓いの一族は舞台から完全に消えた。

その生き残りの中に、両面宿儺に攫われ、彼と生活を共にした娘がいた。

平安の民から『鬼』『災い』と恐れられた彼は、娘の歌を聴いている時のみ、心の安寧を手に入れることができた。

周りに蔓延る呪いを体に吸収し、浄化しゆく。その身に負のエネルギーを背負いながら魂を癒す旋律の術式の巫女。

相手との痛み分けや自分の力を対象へ分け与えたりと、主に自身を犠牲にするため、歌祓いの血筋は短命である。

宿儺が人々に与えた恐怖は計り知れない。

彼の屋敷には、呪いの王に向けられる畏怖、憎しみ、殺意、絶望。それらが渦巻いていた。人を食すにも抵抗がない。殺された者たちの怨念がそこかしこに存在していた魑魅魍魎の巣。

その大きな呪いを巫女の儚き身が吸い続けた結果、体が弱りゆく速さは通常の比ではなかった。


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