第2章 【パンダ/ほのぼの甘】パンダの王子様
彼は優しい。
私が失敗しても笑い飛ばしてフォローしてくれる。商売なのに間違ってどうすんだって怒ってくれればいいのに。
いっそ私のこと嫌ってくれたら諦めがつくのに。想えば想うほど苦しくなる。
「最近ね、パンダくんのことばっかり考えちゃって……」
一呼吸おいて、「好きかも、あなたのこと」と伝えると、笑ってたパンダくんの動きが止まった。少しの間が空いて、
「やめとけ、やめとけ。俺はパンダで呪骸だぞ」
冷静な答えが返ってくる。そんなのとっくに知っていて気持ちを伝えているのに。
「彫刻に恋する芸術家もいるのよ。呪骸に恋する手芸屋もいていいんじゃない?」
「俺はゆめのこと幸せにしてやれないぞ」
「別に幸せにしてもらおうと思ってない。ただ、あなたに心があるなら、それを独り占めしたいだけ」
幸せは自分で掴みにいく。だから私はこの場から逃げずに彼に伝えたい。
真っ直ぐに見つめて、大きなパンダくんの手を握る。体温を感じないけど、彼の心の温かさは知っているもの。私は彼の心を好きになった。
しばらくして、私に根負けしたのか、パンダくんがポツリと吐露してくれる。
「どういう気持ちが恋なのか俺は知らない。でも割と、俺もゆめのことはよく考えてるぞ。昼飯食ったかなとか、頑張り屋だから体調崩してないか、とか」
その言葉に、顔が熱くなる。
パンダくんも私のこと考えてくれているとしたら、それは両思いってことで良いのかな。
「ゆめ照れすぎだろ」
耳まで赤い、と彼にからかわれる。
そのやり取りさえむず痒くて、恥ずかしい。
「だって……」
受け入れてもらったことが嬉しくて、爪先立ちで彼の顎にそっと口付けする。今はこれが精一杯の愛情表現だ。
彼もポリポリと人差し指で頬を掻いている。どう反応したら良いか分からないって顔をしているのがまた可愛くて、自然と笑みがこぼれる。
「今度、どっか遊びに行こうよ。パンダくんとデートしたい」
私が提案すると、彼もノッてくれる。
「いいぞ、推しパンダがいる動物園でも行くか」
「パンダ推しのパンダとか笑える」
少しずつ進んでいければいい。
二人で笑い会える、今この瞬間を大事にしたい。優しい君と過ごすかけがえのない時間なのだから。
END.
→あとがき