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【呪術廻戦】撫子に口付けを【短編集】

第18章 【夏油/悲恋】偽り睡蓮花




最初の標的は、呪術師ではなかった。

教団の粗を探す一般の刑事だった。


「あの男を始末してくれるかな」


夏油の依頼に、ゆめは二つ返事で頷いた。

深夜の路地裏。街灯の光が届かない暗がりで、ゆめの糸が刑事の身体に絡みつく。

男は自分の意思とは無関係に動き出し、持っていた拳銃を自分の頭に向けた。

引き金を引く直前、男の目がゆめを捉えた。

恐怖と困惑に満ちた瞳。

助けを求めるような、何かを訴えるような視線。


ゆめは笑顔で指を動かした。



銃声。



血飛沫が、街灯に照らされて赤黒く光る。


「……簡単でした」


ゆめの声に、感情の波はなかった。

あったのは、夏油に褒められる期待だけ。


「良い子だね。君は本当に優秀だ」


頭を撫でられて、ゆめは幸福に酔いしれた。


それから、標的は徐々にエスカレートしていった。

一般人から高専の“窓”、補助監督、三級術師、二級術師へ。


ゆめの術式は恐ろしいほど有用だった。

気づかれぬまま糸を張り、操り、自殺に見せかけて殺害する。あるいは、同士討ちをさせる。


証拠は、残らない。




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