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【呪術廻戦】撫子に口付けを【短編集】

第2章 【パンダ/ほのぼの甘】パンダの王子様




私はあなたの心を好きになった。
どんな姿をしていても構わない。

――そう、私の王子様はパンダでした。



【パンダの王子様】



私の実家は手芸屋を営んでいる。
近くにある呪術高等専門学校とは懇意にさせてもらっており、学長からの依頼で制服を作る業者へ布を卸したりしている。

私は高校卒業後は一度県外へ出て働いたが、社会の荒波はそう簡単に私を成功に導いてはくれなかった。

勤めていた会社が3年で倒産してしまったので、渋々実家に戻り店を継ぐことにした。店主の母に仕入れや商売の基礎を教わりながら修行中である。

「お母さーん、この大量の羊毛フェルトどこに置くのー?」

「ゆめ、こっちよ」

お得意様に渡す大量の羊毛フェルト。
なんでも人形師だから一度に大量につかうのだそうで。
本人は忙しいらしく、お使いの人がいつも定期的に買いにくるから顔を覚えておいた方がいいというので、今日は私が店番をやっていた。

午後の昼下がり。暇なのでボーッとして店の入口を眺めていた時だった。

カランカランと店のベルが鳴って入ってきたのは……

「お、いつもと違う人だ」

「……に、二足歩行のパンダ!」

「俺パンダ。よろしくな」

人生一の衝撃だった。
驚いて勢いよく立ち上がって、椅子が後ろにガタンと倒れた。
最初は着ぐるみが歩いていると思ったくらいだ。動物園でよく見るあのパンダが歩いて、しかも喋っている。

「あ、えーと、ここの娘のゆめです」

「学長のまさみちのお使いで来た。いつもの羊毛フェルトはあるか?」

お得意様の人形師って夜蛾学長かよ!
しかもお使いってパンダか!
顔を覚えるってレベルじゃねーぞ!

と、心の中でツッコミを入れながら羊毛フェルトを梱包する。お代を頂いて、紙袋を渡す時にパンダさんの手に触れた。

「……サラサラしっとりですね」


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