第15章 【伏黒/シリアス】六月の泪
六月の午後。
湿り気を帯びた空気が、机や椅子の隙間に重たく溜まっていた。
窓から射し込む光は淡く、雨雲に覆われた空を透かして、白い靄(もや)のように教室を染める。
薄暗いからと、先生が部屋の電気をつけた。
いつもの教室、いつもの座学。
ノートをとるフリをして、隣をちらりと盗み見る。
恵は、頬杖をついて前を眺めていた。けれど、視線はわずかに下がり、眠気と戦っているのか、まぶたが上下している。
いつもなら私の視線を感じた時点で、何かリアクションを返してくるのに、今日は静かだった。
胸の奥で小さなざわめきが生まれる。
恵は体調が良くない。それが否応でも分かる。
時折止まるペン先。ゆっくりと動き出すたび、彼の指先はわずかに震える。
額に滲む汗、赤みを帯びた耳。
きっと誰も気付かない小さな変化を、私は見逃さない。
言葉にしなくても分かること。それは、幼なじみとして長く一緒にいたからこそ気付けるものだ。
「大丈夫?」と聞けたら一番簡単だろうけれど、気付いていることを伝えたら、彼はきっと否定する。
だから私は黙っていた。
ただ、隣に座るその気配を感じながら、ノートをいつでも貸せるように私は自分の手元に集中した。
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