第14章 【虎杖/コミュ提出物】ヘレボルス
「なぁ、伏黒」
相棒を呼び止めながら、悠仁は空を見上げた。
「俺たち、呪術師だけどさ……呪いを祓うしか出来ないんだよな」
その言葉に恵は微かに目を見開いたが、すぐにいつもの仏頂面に戻る。呪術師は万能ではない。
死人を生き返らせることもできなければ、傷ついた心を元に戻すこともできない。
「でもさ、それでも……誰かを助けたいって思うんだ」
「ああ、そうだな」
風で霧散する白い息を眺めながら、悠仁が思い出すのは、かつて心を救えなかった友人の姿。
そして、呪霊に弄ばれて、姿を醜く変えられてしまった人たち。
「……俺は、もう後悔したくない」
もうこれ以上、涙を流す人を生み出したくない。
心が挫けそうな時に立ち上がれたのは、揺るがぬ覚悟があるからだ。
「いくら手を広げても、全部は救えない。だから自分にできることを精一杯やるのが、呪術師の領分だろ」
ぼそりと放たれた恵の言葉に、悠仁は深く頷いた。
そして、再び上を向く。寒空の月下に降る雪は美しく、まるで聖夜の贈り物のようにも思えた。
「ケーキ食って仮眠したら次の任務なの忘れんなよ」
「次は何の任務だっけ?釘崎も合流すんの?」
「3人で廃校調査。肝試しで入ると八本足のタコ女に追いかけ回されるって、噂のアレだ」
2人の若い呪術師は、再び歩き出す。
その行く先に待ち受けるのは、果たして希望か絶望か。
それは、神のみぞ知る。
END.