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【呪術廻戦】撫子に口付けを【短編集】

第14章 【虎杖/コミュ提出物】ヘレボルス




「移動できる患者は旧病棟へ一時避難、院内は玉犬に見回りをさせてる。夢野さんに何かあった場合や、呪霊が出現した時は俺に知らせてくれる。わざわざ設置した女神像に何かしようとすれば、呪霊にしろ、呪詛師にしろ、向こうからアクションがあるはずだ」


そう言った恵の口から、細く白い息が漏れる。

夜天に浮かぶ月明かりだけが光源となる、深い闇を湛える真夜中の1時。院内には、深夜特有の張り詰めたような静寂が満ちている。

緊張か寒さか、強張る手を擦り合わせてから、悠仁は自身の脚をパンッと叩いた。


「じゃあ、とりあえず女神像を回収すっか」

「ああ」


2人が中庭の時計塔の方へと視線を向けた時、それを待っていたかのように不自然に風が吹いた。

風に運ばれるように雪が渦を巻く異様な光景と冷気に、こちらも反射的に臨戦態勢に入る。闇夜は呪霊の独壇場。

そして、人間に害をなす怪異の領域。

息を潜めて、渦の中心を見つめた。

ゆっくりと姿を現したのは、木だった。

否、木の形をした何かが、完全に地面から這い出る。

枝が触手のように動き、周りを探る。

細長く蠢くソレの先端にある目玉が、ギョロリと彼らの方を向いた。その視線に、頭皮から背にかけて鳥肌が立つ。


「コイツが『黄泉がえりの木』か」


悠仁が視線をずらすと、枝に巻かれるように呪霊の胴体に括り付けられた人々がいた。

パッと見て3人。行方不明者たちだと悟り、瞬時に頭に血が上る。


「これが都市伝説の正体か。随分と奇抜なクリスマスツリーだな」


思わず恵が吐き捨てるように呟く。

全身にビリビリと伝わる呪力、血走った目玉がぎょろぎょろと動いている様は、極めて醜悪。同時に、恵と繋がってる式神の玉犬が異常を知らせてくる。




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