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【呪術廻戦】撫子に口付けを【短編集】

第14章 【虎杖/コミュ提出物】ヘレボルス


数秒の沈黙のあと、口を開く。落ちる声のトーンが、話題の仄暗さを示していた。


「大きな声で言えないけど……あの女神像、先月のビル倒壊事故の現場から院長が引き取ったって話。院長がクリスチャンでね、像がマリア様に似てるんだって。瓦礫の中から見つかったのに傷ひとつ無い状態だったし、『助けを求める女神様の声を聞いた気がする』って、言ってたとか。入院患者の戸奈さんもクリスチャンらしくて、回診の時に院長と意気投合してた」


それを聞いた瞬間、恵の背がゾワっとした。

過去の様々な経験を踏まえて弾き出される答えが、己に警鐘を鳴らす。都市伝説の噂が広まり始めたのは、ビルの事故の少し後。

つまりは、あのいわくつきの女神像も無関係ではない。そして、あの女が絡んでいる。


「伏黒……同じこと考えてる?」


2人の目つきは途端に鋭くなり、互いに目配せした。そして同時に頷く。


「とりあえず、新田さんに報告すっか」

「まずは、これ以上呪霊が湧く前に女神像を高専が回収。行方不明者の件は、聴覚を操る術式か式神使いの呪詛師が『星の女神』である想定をした方が良さそうだ」


足早にナースステーションを離れて廊下を歩きだした彼らを、看護師たちは不思議そうに見送った。


時刻は過ぎていき、地を這う冷気が夜を染め上げていく。

凍りついた窓の外には、降り積もった白銀の世界が広がる。

規則正しい病院の日常ならば、皆が深い眠りを迎えている時間帯。




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