第14章 【虎杖/コミュ提出物】ヘレボルス
態度は平静を装っていたが、悠仁にはそれが偽りだと分かった。明らかに動揺しているし、組んだ手が微かに震えている様子から、嘘なのは明白。
「そっか。じゃあ、違うこと聞く。都市伝説の『星の女神様』と『黄泉がえりの木』は知らない?」
「……知りません」
俯いたままの少女から、か細い声が聞こえた。
悠仁が確信を抱くには十分なこの反応。これは何かを知っている。しかし、それを話すつもりはないらしい。
これは、奥の手を使うしかないようだ。
「俺……たった一人の家族だった爺ちゃんを亡くしてさ。ヒトから噂を聞いて、ここに来たんだ」
悠仁はわざとらしく目を伏せて溜め息を漏らす。
――別に嘘はつかなくていい。関連の情報を少しだけ向こうに伝えるだけで、勝手に自分の中で情報を補って勘違いしてくれる。
会話の流れの作戦立ててくれた恵はそう言ったものの、本当にこんなんで上手くいくのかと不安にもなったが、相手は食いついてくれた。
「……あなたもなの?」
ゆめは同情の眼差しを向け、労わるように呟いた。
その反応に、内心ちょっとだけ罪悪感を抱きながら、悠仁は話を続ける。
「あなたも……ってことは、夢野さんも?」
「私、たった一人の家族が……お姉ちゃんが、ビルの倒壊事故で死んだの。仕事が終わったお姉ちゃんと、一緒に帰ろうって約束してたのに……」
伏せられた睫毛が目元に影を落とす。その表情に嘘はなく、心から家族の死を悼んでいるのが伝わってくる。
その悲しみと裏腹に、一瞬だけ彼女の瞳には狂気の光が宿った気がした。
「あのね、その写真の人……この間、少しだけお話した。確か娘さんを亡くしてた。都市伝説の女神様の声を聞いたらしくて、『本当に実在するんだ』って喜んでたよ」
ほんの少し警戒を解いたのか、悠仁が手にしていた写真を指差したゆめは、意味ありげに微笑を浮かべた。
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