第6章 僕の可愛い人
その中でも一際デカい背中。見覚えのあるその人物へと近づくと、僕はそのまま目の前の席に座りメニュー表を手に取る。
「ウーロン茶で」といつもはメロンソーダやカルピスなんかを頼む僕を不思議に思ったのか「どうしたんだい?珍しい」と少しばかり驚いたような表情を見せる目の前の親友にチラリと視線を移した。
「僕、今胸がいっぱいなんだよね、だからサッパリした物飲んで冷静にならないとと思って。あ、勘違いしないでね!幸せすぎて胸がいっぱいって意味だから」
そんなふざけだ僕の言葉に「あっそ」とそっけなく答えた傑は溜息を吐き出しながら目の前のグラスへと口をつけた。
「で?どんな手を使ったわけ?」
「何が」
だし巻き卵をつつく僕を呆れたような表情で見てくる傑に、今日呼び出された時点で何を聞かれるか分かっていた僕だが、まるで何を言われているのか分からないと言った返事を返す。
「決まってるだろ、ヒナとの婚約。どうせ悟が勝手に決めたんだろ」
彼女との婚約前日に同期4人で居酒屋にいたため、暴走したヒナを見ていた傑と硝子にはすっかり僕の行動のその先がバレていたはずだし、なんならドン引きされていたのは間違いない。
「勝手に決めたわけじゃないよ、あっちの両親にはちゃーんと許可取ってたし。もちろん本家も賛成してたし」
「でもヒナは明らかに知らなかったじゃないか」
「まぁそれはね、先に言ってたらきっとオッケーしてくれなかっただろうから。サプライズってやつだよ」
「とんでもないサプライズだね、ヒナが気の毒になってきた」