第5章 今夜から
だけど、とりあえずは「その先」が今すぐくるわけじゃないと分かり、私から離れていく悟を見て安慮の息を吐きだすと彼に合わせるようにして上半身を起こす。
「あービックリした、悟がいつもと違う顔するからどうしようかと思った!冗談もほどほどにお願いします」
「えへへ」とニコニコ笑いながら悟を見上げようとした時だった。突然グイッと引かれた腕。それにより身体を起こしたばかりの体制がぐらりと揺れる。「そこまで警戒心解かれるのは、それはそれでムカつくなぁ」と、彼が呟いた事にも気がつかず。
何かが唇に触れ、それが悟の温かい唇だと気がついたときには。
「んっ」
その唇は優しく、だけど何処が色気の含まれたその接触に…一瞬にして私の身体全体の血が巡る。
前回の軽く押し付けるだけのキスとは違い、何度か私の唇を包み込むようなそのキスは、最後にペロリっと悟が私の唇を舌でなぞったことにより終わりを告げ顔がそっと離れていく。
「あ、だけどキスはさせてね。だってヒナ嫌じゃないでしょ?そんなに可愛い顔で僕を見つめてくるんだから」
自信たっぷりにそんな事を言ってのける悟は、これでとかというほど色気を醸し出し意地悪な笑みを作ると「あとハグも、許してね」とゆるりと口角を上げて甘く囁いた。
なっ…なっ…今…舐めたっ…
私の唇…舐めた!!
だけど悟の言う通り、キスをされた事自体に嫌だという感情はこれっぽっちもなく、ただアワアワとして動揺する私に悟は満足そうな顔を見せると「ふふっ、顔真っ赤だよ?」なんてまるで自分のせいではないみたいな言葉を落とした。