第5章 今夜から
「じゃあ、今度こそ寝ようか」と言う悟にこくんと頷けば、布団の中へモゾモゾと2人で入り込む。
「ねぇ、抱きしめて寝ても良い?」
抱きしめて眠る…つまり腕枕をしたりギュッとしたまま眠ると言うことだろうか。そんな事…いくら小さい時の私達ですらした事がない。少しばかり緊張しながらも、きっとこうやって少しずつ触れ合う事に慣れて行かないといつまで経っても心臓がうるさいままだと考えた私は「うん、いいよ」と小さく頷いた。
それを聞いていた悟は、心底嬉しそうに「ありがとう」と優し気な声を出すとそっと私を包み込むようにして引き寄せる。
悟の碧い瞳と視線が絡まり合い、その距離の近さに少しばかり目を泳がせてしまう。いや、動揺しない方が無理という話だ。
まるで絹のようにきめ細かな白い肌は毛穴一つなく、サングラスも目隠しもしていない彼の素顔を見るとやはり思う。
うん、美しい。間違いなく美しいという言葉がしっくりとくる顔立ちをしている。思わず少しの間ジッと見つめていた私に悟は瞳を細め「なぁに?」とやたらと甘い声を出してくるものだから、私は慌てて再び視線を逸らした。
「そういえばさっきの話しだけどさ、今はもちろんこれ以上のことをヒナにするつもりはないけど。だけどいつかヒナがその先をしても良いなと思ってくれたら、僕は嬉しいな」
弾むようなその声に、目を逸らしていた私はばっと悟を見るけれど、その時見た彼の表情があまりに穏やかで優し気で、私は必死に「…うん」と照れたように消え入りそうな声を出すので精一杯だった。