第5章 今夜から
まるで当然かのように行われるその動作に、私は着いて行くこともできずただ呆けていると、トンっと軽い力で肩あたりを押されて私の全身がグレーのシーツへと沈んでいく。
「え?」と思った時には、悟は私の上にまたがるような体制になっていて、やはり美しいという言葉がぴったりな碧色の瞳は私を真っ直ぐ中見下ろしていた。
「…さと…る…?」
そんな情けない声しか出せない私とは違い、目の前にいる彼はいたって冷静だ。あえて言うならば口の端が少し上がり何処が楽しげだということくらいだろうか。
待って…本当にどうしたらいいのか分からない…心の準備だって…心の準備だって…心の準備だって!!何一つ出来ていないのに!!
自分の掌が汗でじっとりと滲んでいくのがわかる。馬鹿みたいに鼓動は早くなり、きっと表情だって固まったままだ。
だけど、目の前の悟はそんな事を気にする事もなく、優しく…穏やかに…そして妖艶に微笑むと。右手をTシャツの裾へ滑り込ませゆっくり私へ顔を近づけてくる。
どうしようっ…どうしようっ…こんなの…っ
ギュッと目を瞑り、これでもかと言うほど手元にあるシーツを握りしめた。綺麗に整えられていたシーツはきっと私の握力でぐちゃぐちゃに違いない。混乱する頭とは裏腹に、私の身体は指一つ動く事なくただひたすらに強く瞳を閉じた。