第5章 今夜から
あのお見合いの日に悟が言っていた言葉を思い出す。
『恋人扱いするよ』と。これはその恋人扱いというやつなんだろうか、いや…間違いない。
そう思いながらもドキドキと鳴っていた心臓は、抱きしめられたことによりより一層大きな音に変わる。それはまるでドッコンドッコンと馬鹿みたいにうるさく鳴っている太鼓みたいだ。
まるで太鼓を叩いているほどその大きな胸の鼓動に、自分の心臓がお祭り騒ぎを起こしているなんて思いながら、悟の長い脚の間にちょこんと体操座りをしながら自分の足を抱え込んだ。
お腹周りには悟の温かい手がある。顔なんて私の首筋に息がかかるくらい近くてもうどうしたら良いのか分からない。
ドコドコと鳴る心臓を押さえながら平静を装おうと必死になっていると、悟がソファーへもたれたのだろうか。私の身体が少し後ろへと引っ張られていく。
流れるようなその動きにアワアワとしていると、悟の鍛えられた腹部と私の背中がピッタリとくっ付いたのが分かった。
やばい、どうしよう、心臓の音聞かれちゃうかもしれない。この尋常じゃない音を気かれたらそれこそ恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだ。
その後もその体制が崩される事はなく、私はうるさい心底を抑えるのに必死で全くと言って良いほど映画に集中出来なかった。
「普段ラブストーリーとか観ないけど、意外と面白かったね。特に最後ヒロインが主人公を殴り飛ばすところとか」なんて言う悟に、え?そんなシーンあったの?てゆうかどんな終わり方よ。なんて思いながらも「あはは、そうだね」なんて曖昧な返事をするくらいには動揺してたと思う。