第5章 今夜から
「ヒナの荷物はこっちだよ」
玄関を入り二つ目の扉を開いた悟に続いて中を覗き込むと、広々とした部屋の中には本当に私の部屋にあった荷物達が運び込まれていて、何故だか不思議な気持ちになる。
「疲れたでしょ、お風呂入って来たら?今から荷解きするの大変だろうから服は僕の貸すよ」
「大丈夫だよ、悟が先に入りなよ!」
そんな会話をしながら何度も来たことのある部屋へと足を踏み入れる。相変わらず広いリビングだ。私の家もそこそこ広かったが、ここはそんなの比べ物にならないほど豪華で広い。
目の前に広がる夜景を見て、こんな所で口説かれたら女の子はイチコロなんだろうなーとそんなどうでも良いことが頭に浮かんで、それを考えた瞬間何故だか胸の辺りがモヤっとした。
「ほら良いから、ヒナが先に入りな。服はこれね」
「ありがとう」
いつの間にか私へ貸してくれる部屋着を取りに行ってくれていたらしい悟は、私の背中を押すと早くお風呂へ行くように促す。
悟はいつもこうだ。いつだって私を優先してくれる。本当優しいなぁ…まぁ周りの人達からは「あの人は適当だ」「本当五条って脳内小学生だな」とか言われているけど、私からしたらそんなことこれっぽっちもない。だからこそ、悟との婚約を受け入れられたんだと思う。悟となら、上手くやっていけるって。そう思ったから。
それと同時に、私はいつも悟に甘やかされ何も返してあげられていないんじゃないかとも思う。