第21章 忘れモノ
それが僕に出来る唯一の事だったし、そんな事しか僕には出来なかったからだ。
情けないなんてもんじゃない。無力にも程がある。
いくら最強だと言われようが、六眼を持っていようが、無下限術式を使えようが彼女を助けられないじゃ無いの意味もない。
何の意味もないんだ…
もどかしくて苦しい。だけどきっとヒナはもっと苦しいはずだ。
そしてこの一ヶ月ずっとずっと苦しんでいたはずだ。
早く君を抱きしめたい。
早く君の声が聞きたい。
早く君の笑った顔が見たい。
早く二人のあの家へ帰りたい。
僕一人じゃダメなんだ。君と一緒じゃなきゃダメなんだ…
「いや、すぐに戻るよ。きっと一人でいても眠れない」
そう呟きサングラスから目隠しに変えた僕に、硝子は深く困ったようなため息を吐き出すと「気を付けて行けよ」と珍しくそんな言葉を落とした。