第5章 今夜から
だからまさかそんな悟がラブラブ夫婦に憧れを抱いていたなんて思うはずもなく…というか想像もしていなかったわけで…
私が混乱するのも無理はない。
「だけど僕達ってお互い結構忙しいでしょ?しょっちゅう顔は合わせてても2人きりになる時間なんてほぼゼロ。幼なじみとしては仲良しで完璧な幼なじみだったかもしれないけど、婚約者となるとちょっと一緒の時間が少なすぎると思うんだよね。だから一緒に住んじゃおうと思って」
「……なるほど」
「ヒナだって仲良しな夫婦が良いでしょ?そのためには今から婚約者として仲良くしとかないと」
私の頬に手を添えた悟は、ゆるりと口角を上げて私からの返事を待つ。
「うん…そうだね、もちろん仲良しが良いよ」
それはまるで悟の掌の熱に掴まれたみたいに、私の口からはそんな言葉がするりと落ちた。
「ヒナは僕と一緒に住むの嫌?」
黒の目隠しを親指でグイッと持ち上げると、片目だけあらわになった宝石のような碧色の瞳は、私を不安そうに見下ろしてくる。
「嫌じゃないよ!嫌なわけない…」
慌てながらも、別に悟と一緒に住むのが嫌なわけじゃない、ただいきなりのことに驚いただけだ。とそう付けたすようにして言葉を漏らせば、悟は満足したように片目だけ出された綺麗な瞳を細めると「良かった、断られたらどうしようかと思った」と、ほっと安心したように笑顔を見せた。