第21章 忘れモノ
「酷いなんてもんじゃない、血を流しすぎだ、脈も弱くなってきてる」
「硝子ッヒナは平気だよな?」
「黙ってろ、騒ぎ立てたところで傷が癒えるわけじゃないんだ。それに私だって動揺してる」
硝子が手をかざした所から、みるみるうちに傷が塞がっていく。動揺していると言った硝子の事を初めて見た気がする。
傷や人の死に誰よりも多く携わっている硝子ですら同期のこの姿を見て動揺しないはずがなかった。
「ヒナ…頼む…」
どんどんと冷たくなっていく指先を、ただ強く握りしめる事しか出来ない。
自分にしか反転術式を使えないことがもどかしい。こんなにも自分の無力さにもどかしくなった事もない。
「傷は塞いだ、だが出血はそれとは別問題だ。まだ到底安全だとは言えないし、大丈夫だとも言えない。何でこんな事になった、特殊な呪具で切り付けられた痕がある。きっとこれが回復を遅らせてる」