第20章 執着
「ねぇ、もしかして…僕が忘れてる記憶ってヒナが関係してるの?」
その瞬間、まるで全身の血液が一気に流れるようにして音を立てる。ドクドク、ドクドクと。うるさいほどに心臓は鳴り脈を打つ。
「そ、れは…」
言えない。言ったらダメだ。いくら思い出して欲しくても、それは呪いを手助けする事になる。
「ヒナが傑と抱き合ってるのを見て心底ムカついた。この家に帰って来ないって分かって腹が立ったし悲しかった。何より…一緒にいるとすごく心地が良いんだ。温かくて、癒されて、それでいてどうしようもないほど君が欲しくなる」
「僕の知っている自分は、他人に対してそんな感情を持つ人間じゃないんだ」そう言葉を付け加え、そして私の頬へと手を伸ばした。
少し冷たい悟の指先が、私の頬をするりと撫でる。
その感覚ですら久しぶりで、そして目の前の真剣な表情をした彼を見て泣きたくなった。
眉間にシワを寄せ唇をぎゅっと噛み締める。そうしていないと涙が溢れてしまいそうになるからだ。