第20章 執着
そもそもは悟の部屋なのだから、私が咎める立場ではないのだが。あの部屋を見られてしまったのならベッドを買おうと言うのも納得だ。
段ボールは溢れに溢れ、数個のクッションと毛布で作られた寝床。
一ヶ月も時間があったんだ。ベッドや布団を買おうと思えば出来た。だけど私がそれをしなかったのには理由があって…
あの家で私が寝る場所は悟と一緒のあの寝室なのだという気持ちがあったからだ。ベッドや布団を買ってしまったら、段ボールで溢れたあの部屋が私の居場所になってしまいそうで、それが嫌だった。それが怖かった。
「うん、買いに行こうかな。だけどベッドじゃなくて布団が良いかな」
確かにそろそろあの適当な寝床には限界を感じていた。任務の疲れもちゃんと取れていなかったかもしれない。
だけど、ベッドよりも布団のほうが良いだろう。もしも悟の記憶が戻った時、あの部屋にきっとベッドがあったらいつまでも今までの事を気にしてしまうと思うから。別々に寝ていたことはもちろん、私を好きだと忘れていたことまで。
布団ならば何処かに閉まってお客さん用にしても良いし、最悪は処分しても良い。だから私は布団を選んだ。