第20章 執着
硝子の家からの帰り道、タクシーに乗り込んだ私達はしばらく無言だった。何となく照れ臭く、そして気まずかったからだ。
そんな空気を破ったのは、悟の方で。
「明日夕方から時間が取れるんだ、一緒に買い物に行かない?」
「買い物?いきなりどうしたの?」
悟が記憶を失ってから、私をこうして何処かへ誘うことなんて今まで一度もなかった。それはそうだ、彼からしたら私とプライベートを過ごす意味なんて特にないのだから。
だからこの発言に私ら少なからず驚きキョトンとして彼を見つめた。
「ベッドを買いに行こうと思って」
「ベッド?壊れたの?」
「いーや僕のじゃないよ。ヒナのベッド」
その悟の言葉を聞いてハッとする。だって、突然そんなことを言うなんておかしい。今まで一ヶ月間そんなことに干渉してこなかったのに…
「もしかして…部屋に入ったの?」
私の言葉に、悟はバツの悪そうな顔をすると「約束破ってごめんね、だけど仕方がなかったんだ。家に帰ってもヒナがいなかったから部屋にいるのかなって少し覗いた…」と思った通りの言葉が返ってきた。