第20章 執着
硝子が玄関へと向かったと思うと、次の瞬間にはドタドタと大きな音が聞こえてくる。
それが人の足音だと気が付くには少し時間がかかって、黒の目隠しに真っ黒な服を着た見慣れたその姿を見て、私は唖然と目を見開いた。
「何で帰って来ないの」
「……え」
「家だよ、何で帰って来ないで硝子の家にいるのかって聞いてるの」
今日は何だか悟の怒った姿を見てばかりだ。
もちろん悟の目元は見えないが、彼が怒っているのはあの碧く美しい瞳を見なくても分かった。だって明らかに声は低いし、そして口元は口角が上がり笑っているはずなのにちっとも笑っていないのだ。
「…それは」
「僕が昼間あんなこと言ったから?だから帰って来なかったの?それとも僕と一緒に住むのが嫌になった?」
「ちがうよ!!それは…一緒に住みたくないのは悟の方でしょ…」
「は?僕がいつそんなこと言った。ヒナと住みたくないなんて、僕一回でも言った?」