第20章 執着
「じゃあどうするんだ、出て行くのか?」
「うん、だってきっと迷惑だろうし。なるべく悟のそばにいたいと思ってたけど、きっと今のままあまりに近くにいすぎても良い事ないと思うんだよね。辛いし…このままだと逃げ出したくなる。本当私って情けないな…」
悟を諦めたくないはずなのに、そう思えば思うほど空回りをして苦しくなる。今までとは違うその環境と態度に、心がついていけなくて引き裂かれそうだ。
「そうか、ヒナがそう決めたなら私は何も言わないが、記憶を取り戻した時の五条はそれは愉快だろうな。その光景が目に浮かぶよ」
枝豆を口へと運ぶ硝子に、私は小さく苦笑いしながらも「記憶が戻るかも分からないけどね」と呟き、持っていたグラスの氷をカラカラと回した。
もしも、悟が私を好きだという感情を取り戻したら、悟は私が出ていったことをどう思うかな。傷付けなきゃいいな…そしてあわよくばまた前のように一緒に住めたら良いな…
私は結局こうやって、臆病なまま…まるでぬるま湯にでも浸かったみたいに逃げることしか出来ないのだ。