第19章 大切な記憶
「僕に触られるの嫌なの…?傑は良いのに」
「そういうわけじゃないよ!」
「じゃあ何で、今避けたの。僕の手から逃げたよね」
いつもの悟の弾んだ声とは違い、低く機嫌の悪そうな声が降ってくる。
本当にそんなつもりじゃなかったのに。だけどどう言ったら良いかも分からない。もう頭の中はぐちゃぐちゃで…私を好きじゃないはずの悟が何故こんなことを言うのかも分からなかった。
「悟やめないか、ヒナが困ってるだろ」
「傑は黙ってて。僕はヒナに聞いてるんだよ」
二人はバチバチと視線を合わせ、それに挟まれた私は、それはそれは再び泣きたくなるほどの重苦しい雰囲気に身を震わせる。
私のせいで悟に嫌な思いをさせた。それに傑まで巻き込んで…
やはり私は、悟の記憶が戻るまで彼の側にいない方が良いのかもしれない。結局こうして感情をコントロール出来ず周りに迷惑をかけてしまうくらいなら。
その方が…お互いの為なのかもしれない。