第19章 大切な記憶
トントンと優しく穏やかに背中をさすってくれる傑の温かなぬくもりに、ゆっくりと心が落ち着いてくる。
「大丈夫だよ」とは言うけれど「大丈夫?」とは聞かない。そんな彼の優しさに胸が軋んだ。
ジクジクと痛む胸と、ズキズキと痛む目元が辛い。
ゆっくりと傑を見上げれば、やはりその視線はとても心配そうに歪んでいて…私の濡れた目元を指先ですくってくれる。
「ごめんね…いきなり泣いて」
「いや、良いんだよ。それより君達二人が大変な時に側にいてあげられなくて悪かったね」
「ううん…大丈夫。硝子もいてくれたし、それに…大変なのは記憶を無くした悟で、私じゃないから…」
「それは違うだろう。ヒナだって大変な思いをしているのは同じだよ、むしろ君の方が辛いのは分かっているよ。だからそんな無理に笑う必要はない」
濡れた頬を拭うようにさすってくれるゴツゴツとした指先。リズム良く撫でてくれる背中の温もりに少しずつ冷静さを取り戻していく。