第19章 大切な記憶
「…ヒナ」
優しく心配そうな声が上から聞こえてくる。彼の姿を見たのはとても久しぶりで悟が記憶を無くして初めて会う。ここ最近ずっと海外出張に行っていたらしい。
忙しいながらにも、私を心配して何度か電話やメールをくれていた。
「…す、ぐる…っ…ひっく」
止まる事なく涙を流す私を、傑は心底心配そうに…そして眉を垂れ下げ見下ろすと、ゆっくりとこちらへと手を伸ばす。
しかしそれは私に触れる間際一瞬ピタリと止まり、少しばかり何かを考えた素振りをした後、ふんわりと震える私の身体を優しく抱きしめた。
「ずっと我慢していたんだね、大丈夫だから、不安な気持ちを隠す必要はないよ。辛かったら泣いて良いんだ」
ひっくひっくと肩を揺らしながら、抱きしめてくれる傑の服へとしがみ付く。
傑にはいつも慰めてもらってばかりだ。学生時代からそうだった気がする。傑の優しさに、つい涙腺が緩んでしまうんだと思う。