第19章 大切な記憶
悟と別れてからすぐ、私は早足で高専内を歩いた。だって今にも泣いてしまいそうだったからだ。
こんな所生徒達に見られたらそれこそ最悪だ。きっと心配をかけてしまう。ただでさえ最近距離が遠く様子のおかしい私と悟に気が付いて、心配そうな顔をさせているというのに。
それでも何も聞いてこないあの子達の優しさが、何よりもの救いだった。
下唇を噛み締め拳に力を入れる。堪えていないと涙が溢れてしまいそうだ。
次の瞬間、ドンっという軽い衝撃を感じ額をぶつけた事に気が付く。涙を堪えるために下を向いていたから何かにぶつかったらしい。
「…っ」
「驚いた、大丈夫かい?」
その聴き慣れた優しい声に、緩んでいた涙腺がさらに力を無くしていく。
そして視線をあげ、その心配そうな表情が視界に入った時にはすでに限界で…
「ヒナ、泣いても良いんだよ。大丈夫、私しか見ていないから」
と言う一瞬で全てを理解したようなその言葉を聞いた瞬間、ここ1ヶ月我慢していた涙が嘘みたいに溢れ出した。