第19章 大切な記憶
悟の座るソファーの隣へと腰をかける。
その距離は遠くも近くもない。
きっといつもならば、悟が先に一人で映画を観ているなんてことはなくて…私がお風呂から上がるのを待ってくれていただろう。
こうして隣り合って座るのではなく、背後から抱きしめてくれていただろう。
私を好きだと言う記憶は無くしてしまったのに…私の好きな食べ物は覚えているのだから複雑だ。
薄暗い空間の中、テレビの光が当たる悟の横顔を見ながらふつふつと湧き起こる何とも言えない感情に気付かないよう、私は目の前の映画を真っ直ぐに見つめた。
「あ、ちなみにこの映画最後主人公が派手に死ぬの。本当三流って感じでそのつまらなさがたまんないよね」
と悟はニヤリと笑う。