第19章 大切な記憶
「じゃあ帰ろっか」
「え?」
「ん?家、帰らないの?まだ仕事終わってなかった?」
「いや、終わったけど…でも私悟の記憶が戻るまでは高専に泊まろうかなって思ってて」
「何で?そんな事する必要なくない?」
それはどうやら本気でそう思っているらしく、不思議そうな顔で私を見つめてくる。
「え、だって…それは、ほら。今までとは違うし悟だって困るでしょ?いきなり私と住んでますとか言われても…」
「別に何も困らないよ。そりゃあ記憶にない女が実は一緒に住んでましたーとか言われたらさすがに無理だけど、ヒナなら何の問題もないし。どうせ僕達忙しいから家なんて寝に帰ってるみたいなもんでしょ?」
「まぁそれはそうなんだけど…」
「はいはい、そんな事言ってないで帰るよー。今日はまだ早いし映画でも観ながら甘いもの食べたい気分だな〜」
悟にグイグイと背中を押され慌てて歩き出す。
少しだけ胸が軽くなったような気がする。もしこのまま悟に一緒に住むのを拒否られでもしたら、多分私は深く傷付いていただろうから。