第19章 大切な記憶
「つーわけで硝子、僕そろそろ行くから」
「おい待て五条、話はまだ終わってないぞ」
「大丈夫だってー、その記憶が無くなっていたとして今のところ僕には何の問題も無さそうだし。さっきも言ったけど、とりわけ不便もなさそうだからね」
「…本気で言ってるのか」
「だからそう言ってるでしょ、無問題!じゃ、夜蛾学長に呼び出されてるからもう行くよ」
悟はヒラヒラと手を振ると、扉の前に立っていた私にすれ違いざま「心配ありがとね」と頭をポンポン撫でるとそのまま部屋の外へと出ていった。
「…硝子」
「気が付いたか」
気が付かないわけがない。だっておかしかったのだ。どう考えても悟はいつもの悟じゃなかった。
「悟の記憶が無いって今言ってたよね…もしかして、悟が忘れた記憶って」
「…………」
「私と婚約してからの記憶…?」
「あぁ」硝子はそういつもよりも低い声で返事をすると、呆れたようにため息を吐き出した。
悟が呪いにかかるなんて有り得ない。そう思っていたけれど、どうやらこれは冗談ではなさそうだ。なぜなら先程の彼の様子を見れば一目瞭然だったからだ。