第14章 見たくない
その瞬間、温かい涙が流れた。
馬鹿みたいに次から次へと涙が溢れ出した。
何でこんなにも涙が出るんだろうとは思わなかった。理由は明確だったからだ。
いつの間にか悟は私の特別だった。
いつだって私の隣にいてくれた彼を。
いつだって優しく私を抱きしめてくれていた彼を。
私は特別に思っていた。
だけど、もう悟の隣にいられるのは私じゃないんだ。
再び涙を流す私を見た瞬間、悟は大きく目を見開くと、強く握っていた腕の力が少しだけ緩まった。
「…頼むから、婚約破棄したいなんて言わないで欲しい。無かったことにしようとないで。嫌なところがあるなら直すから。僕はヒナがいなくちゃ生きていけない…」
「………」
「ずっと昔から見てきたんだ。お前の笑顔が見れるなら、僕は他に何もいらないと思えるくらい。僕の全てはヒナなんだよ」
「……ど、して…っ…」
悟は私の身体を強く抱きしめて、首元へと顔を埋めると、苦しく今にも泣きそうな声でつぶやいた。
「好きだよ、ヒナ。だって僕は、もうずっと昔から君が好きなんだ。僕は君が愛しくてたまらないんだよ」