第14章 見たくない
私を抱きしめたまま見下ろす悟は眉間にシワを寄せると、私をキツく抱きしめる。
今まで我慢していた涙が嘘みたいに溢れ出した。
「普通の幼なじみに戻る?そんなのもう無理に決まってるだろ」
「…………」
「ヒナの温もりを一度知ったのに、この腕の中にいるヒナを知ってしまったのに、忘れるなんて出来るわけないだろッ!!」
「な、んで…」
「僕は、お前のことになると余裕なんて少しもないんだよ。馬鹿みたいに余裕がなくて馬鹿みたいにダサいんだ。最強が聞いて呆れるよね。だけど僕は昔からずっとそうだった。ヒナの前では最弱も良いとこだ」
長く白いまつ毛をふせる悟が、小さく唇を噛み締めるようにして言葉を落とす。
私のことになると余裕がない…?悟の言っている意味が分からなかった。だって私は、余裕のない悟もダサい悟も見た事が無かったからだ。
いつだってスマートで、いつだってカッコ良くて、いつだって強くて。
だけど時々甘えん坊で、時折寂しそうな顔をして、そしてたまに見せてくれる可愛い笑顔がたまらなく好きなのだ。
その瞬間、自分の中の彼への気持ちがやけにクリアに届いて見えた。
彼の何気ない姿を可愛いと思うのも、彼のそばにいると安心するのも、彼の支えになりたいと思うのも…
彼の言うダサいが分からないのも。余裕がないというのが分からないのも。悟を良く知る私はそんな風に決して思わないからだ。何故なら、その全てが彼で、そしてそんな彼を大切に思っているから。
そしてどうして今こんなにも、辛くて苦しくて壊れてしまいそうなのかも…
それは、全部全部……私が、悟を…