第14章 見たくない
悟の言葉に、自分が彼を見ていなかった事に気が付く。正確にいえば、悟の首元を見ていて、顔は見ていなかったかとも言える。
まぁそんな事、今はどうでも良いけど悟がそれを気にするならなら仕方がない。私はゆっくりと顔を彼へと向け口を開いた。
「もし、書類?とかあるようなら実家に送っておいて欲しいな」
「…書類?実家?」
私はよく知らないけど、当主同士で婚約の書類なんかを交わしてるのかもしれない。縛りとまではいかないだろうが。
「あと荷物は出来る限り早く取りに行くから安心してね。まぁでもそれも厳しそうなら業者に頼んでくれるとありがたいかな。これも実家で良いから」
「荷物って…何の…?」
いやいや、それはもちろん私のあの大量の段ボールでしょう。それとも忙しくて発送すら無理とか?
「え?無理?じゃあすぐにっていうのは厳しいけど…なるべく今月中には業者の手配頑張るね」
「ちょっと待って…」
「なぁに?なんか不満な点あった?まったく悟ってば我儘だなぁ。これでも私すっごくマシな方だと思うよ?だって別に怒ったりもしてないし」
うん、浮気をされた挙句、こんなにも丁寧に説明をしているんだ。感謝くらいして欲しい。
「いや、そうじゃなくて」
「んー、あとなんだろう。何かあったかな?」
「ねぇ」
「あ!そうだ!一番大事な事忘れてた!今までありがとうね。すっごく楽しかった。良い思い出なった!」
「え?…え?思い出って何言って…」
え?まさか彼女の為に、私との婚約の記憶を消せとまでは思ってないよね?
「それじゃあ、今日をもって私達は、婚約破棄ってことで!」