第3章 婚約者
「今から行くの?大変だね、気を付けてね」
悟を見上げそう呟けば、悟はにっこりと笑顔を見せたあと「僕にそんなこと言うのお前だけだよ」と嬉しそうに言いながらポンっと私の頭に手を置いた。
「はぁ、今日は任務一件も入れずにヒナとゆっくりしたかったのに」
「私も少しでも悟の負担減らして任務変わってあげられたら良いのに…ごめんね」
「なーに言ってんの、そんなの僕と一緒に高専の教師やるって言ってくれた時からヒナは十分僕の力になってくれてるよ」
「だけど…私は悟や傑みたいに特級じゃないし…」
「良いんだよ、特級の仕事なんてろくなもんじゃないし。ヒナには危ない思いして欲しくないからね」
悟は私の頭に置いていた手で優しく撫でると、私を見下ろしサングラスをかけた。
しばらくして伊地知君のお迎えが料亭に到着して、私達は店の外へと出る。
こんな料亭の中でも、すれ違う人すれ違う人に悟はやたらチラチラと見られていた。うん、まぁ今日の悟もの凄く目立つもんね。
着物にサングラスであきらかに変な組み合わせなはずなのに、彼がすると違和感がなく、むしろカッコ良く見えるから不思議だ。
「こんな日に途中で帰るなんてごめんね、せっかく婚約初日なのに」
「全然大丈夫だよ!任務なんだから仕方ないよ。それに私もこのあと高専行くからさ、だから気にしないで」
「帰って来たら一緒にご飯行こう!僕良いレストラン予約しとくから」
「うん、行こっか!楽しみにしてるね」
「じゃあ行って来るね…行きたくないけど。あと生徒達のことよろしく」
「うん、行ってらっしゃい!生徒達のことはまかせて」